― 仮説を更新し続けるという選択 ―
再現性の高い痛みは、
構造・動作・負荷条件を整理することで、
比較的明確な評価につなげることができます。
一方で、
臨床では再現性が低く、
評価が難しい痛みにも数多く遭遇します。
動作によって明確に再現されない。
姿勢を変えても症状が一定しない。
日によって訴えが変わる。
こうした痛みは、
評価の難しさから
心理的要因や気分の問題として
まとめられてしまうことも少なくありません。
しかし、
再現性が低いという事実そのものが、
評価を止めてよい理由になるわけではありません。
再現性が低い痛みが示しているもの
再現性が低い痛みは、
「原因がない」のではなく、
原因を単純化できない という状態であることが多い。
- 負荷条件が複数重なっている
- 時間的要因が関与している
- 神経系の感受性が変化している
- 環境や心理的文脈が影響している
こうした要素が絡み合うことで、
単一の動作やテストでは
痛みが再現されにくくなります。
ここで重要なのは、
再現性の有無を
二分法で捉えないことです。
再現性は
「ある・ない」ではなく、
程度の問題 として存在します。
仮説を固定しないという評価戦略
再現性が低い痛みに対して、
最も避けるべきなのは、
早い段階で仮説を固定してしまうことです。
侵害受容性だろう。
神経障害性だろう。
心理的要因が強いのだろう。
こうした仮説自体は必要ですが、
それを結論として扱ってしまうと、
それ以上の評価が進まなくなります。
再現性が低い痛みを扱う際には、
仮説は常に暫定的なもの として置き、
介入の結果や経過をもとに
更新し続ける姿勢が求められます。
小さな再現性を拾い上げる
再現性が低い痛みであっても、
注意深く評価を行うと、
完全にランダムな症状であることは稀です。
- 特定の時間帯で変化する
- 疲労が蓄積した後に出現する
- 一定期間後に増悪する
- 生活動作の中でのみ出現する
こうした 小さな再現性 を拾い上げることで、
痛みを理解する手がかりが得られます。
再現性を
無理に作り出そうとするのではなく、
現れている再現性を
見逃さないことが重要です。
介入は評価の一部である
再現性が低い痛みに対しては、
介入そのものが
評価の一部になります。
ある介入を行った結果、
症状がどう変化したのか。
変化が持続したのか。
別の条件で再現性が現れたのか。
これらはすべて、
次の仮説を立てるための情報です。
ここで大切なのは、
介入を
「治すための行為」だけでなく、
評価を深めるための操作
として捉えることです。
再現性が低い痛みと向き合う姿勢
再現性が低い痛みは、
臨床家にとって
不安や迷いを生じさせやすい対象です。
しかし、
この不確実性から目を背け、
安易に分類やラベルに回収してしまえば、
評価はそこで止まってしまいます。
再現性が低いからこそ、
構造、動作、時間、文脈を行き来しながら、
仮説を立て、検証し、更新し続ける。
この姿勢こそが、
科学としての臨床を支えていると考えています。


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