― 再現性をもとに痛みを可視化する ―
臨床の場において、
痛みを評価するうえで重要なのは
「再現性があるかどうか」です。
痛みは主観的な体験であり、
数値化だけでは本質を捉えきれません。
そのため、
痛みを数値として扱うだけでなく、
どのような条件で再現されるのかを可視化する
必要があります。
運動器疾患とは何か
― 再現性が生まれる理由 ―
運動器疾患とは、
骨、関節、筋、腱、靱帯、神経といった
運動に関わる組織に生じる問題を指します。
・腰椎椎間板ヘルニア
・脊柱管狭窄症
・頚椎症
・肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)
などと主に「痛みや痺れ」といった症状があり、
整形外科を受診すると医師より診断される病名が
「運動器疾患」とよばれます。
これらの運動「器」には、
日常生活の中で、
- 圧縮
- 伸張
- 剪断
- 捻転
といった 力学的ストレス が加わります。
運動器疾患の多くは、
これらのストレスが
特定の部位に、特定の条件で繰り返されることで
発症・増悪します。
そのため、
運動器疾患に伴う痛みは、
一定の動作や肢位、負荷条件で
再現性を示すことが多いという特徴があります。
この「再現性の高さ」こそが、
運動器疾患を評価するうえで
重要な手がかりになります。
問診による痛みの整理
評価の出発点は、
丁寧な聴取です。
- いつから痛みが出ているのか
- きっかけはあったのか
- 何をすると痛みが強くなるのか
- 何をすると楽になるのか
これらを確認することで、
痛みが
偶発的なものなのか
特定の負荷に関連しているのか
生活動作と結びついているのか
といった輪郭が見えてきます。
ここで重要なのは、
診断された疾患名ではなく、
痛みが再現される条件を言語化することです。
立位姿勢の構造的評価
― 個性を把握する ―
次に、
立位姿勢を中心とした
構造的な評価を行います。
これは、
正しい・間違っているを判断するためではなく、
その人の おおまかな個性 を把握するための作業です。
主に、以下の点を
視診・触診で確認します。
- 足部アーチの状態
- 外反母趾・内反小趾
- 踵骨の回内・回外
- 脛骨の外捻
- 大腿骨の回旋
- 腸骨の高さ
- 腸骨の前方・後方回旋
- 骨盤の前傾・後傾
- 肋骨下角
- 脊柱の配列
(胸椎過後弯、腰椎過前弯、側弯、フラットバックなど) - 肩甲骨の位置
- 頭部の位置
この段階では、
原因を断定することはしません。
「この人は、こういう構造的特徴を持っている」
という情報を、
頭の中に入れておくことが目的です。
動作確認と整形外科的テストの組み合わせ
構造的評価の次に、
症状に応じた動作確認や
整形外科的テストを行います。
ここで重要なのは、
単一のテスト結果で判断しないことです。
動作の中で症状が再現されるか。
特定の肢位や負荷で痛みが変化するか。
これらを確認しながら、
複数の整形外科的テストを
組み合わせて 用います。
目的は、
どの部位に
どのような力学的ストレスが
かかっているのかを推測することです。
再現性が示すもの
動作やテストによって
再現性のある症状 が確認できた場合、
この時点で
痛みの原因や関与因子が
かなり明確になります。
ここで言う原因とは、
単一の組織や診断名ではなく、
- どの動作
- どの肢位
- どの負荷条件
で、
痛みが生じるのか
という構造的・機能的な理解です。
この再現性こそが、
臨床における
評価の信頼性を支える要素だと考えています。
再現性が得られない場合の考え方
― なぜ臨床家は困るのか ―
評価の過程で、
症状の再現性が明確に得られない場合もあります。
その際には、
構造的要因をさらに精査します。
- 関節弛緩性
- 大腿骨前捻角
- 脚長差
などを改めて確認することで、
痛みの背景が見えてくることもあります。
しかし、それでもなお
再現性が得られない疼痛に直面することがあります。
臨床家が困るのは、
このようなケースです。
なぜなら、
「どの部位に」
「どのようなストレス」が
かかっているのかが分からなければ、
どこから、何を治療すべきかを判断できない からです。
結果として、
痛い部位に対して
とりあえず何かを行う、
という対応になりやすくなります。
経験則だけに依存することのリスク
もちろん、
臨床経験を積む中で
ある程度の推測を行うことは可能です。
しかし、それは
科学的・客観的事実とは異なります。
再現性のない疼痛に対して、
経験則のみを根拠に介入を行う場合、
期待した効果が得られないだけでなく、
症状を悪化させる危険性もあります。
例えば、
- 本来、緩めるべきでない部位に
筋膜リリースを行ってしまう - 動かすべきでない方向や角度まで
関節モビライゼーションを行ってしまう
といったケースは、
理論上、十分に起こり得ます。
これらは
施術者の技量の問題というよりも、
評価の不確かさに基づくリスク だと言えるでしょう。
再現性を求め続ける意味
再現性のない疼痛は、
決して珍しいものではありません。
しかし、
再現性が得られないからといって
評価を止めてしまえば、
治療は推測の域を出ません。
だからこそ、
構造、動作、負荷条件を行き来しながら、
可能な限り
「どの条件で、何が起きているのか」を
探り続ける必要があります。
再現性を求める姿勢は、
痛みを単純化するためではなく、
不用意な介入を避けるための
安全装置 でもあると考えます。
次回以降、
客観的に説明がする/できることの重要性が
理解できたと思われます。
今後は、各部位や疾患ごとの
具体的な評価方法や検査について、
個別に整理していく予定です


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