― 感作と痛覚変調性疼痛という視点 ―
ここまでの章では、
痛みを評価するうえで
「再現性」が重要な手がかりになることを
繰り返し述べてきました。
一方で、
臨床の現場では
再現性が低下し、
評価が難しくなる痛みにも多く遭遇します。
このような状況を理解するために、
感作という概念は
重要な視点を提供してくれます。
末梢性感作
― 入力に対する反応性の変化 ―
末梢性感作とは、
組織や末梢神経レベルで
刺激に対する反応性が高まった状態を指します。
炎症や組織損傷の影響により、
同じ刺激であっても
以前より痛みを感じやすくなる。
この場合、
痛みの再現性自体は保たれていることが多く、
ただし
痛みが出現する閾値が低下する
という特徴があります。
動作や負荷条件と痛みの関係は残っており、
評価としては
比較的整理しやすい状態と言えます。
中枢性感作
― 入力と痛みが比例しなくなる ―
中枢性感作では、
脊髄や脳レベルで
痛みの処理が変化します。
刺激の強さと
痛みの大きさが
必ずしも比例しなくなり、
- 痛みが広がる
- 持続する
- 刺激がなくても痛む
といった現象が生じます。
この段階では、
痛みの再現性が
低下したように見えることがあります。
しかしこれは、
痛みが偶然になったのではなく、
評価の前提となるモデルが変化した
結果だと考えることができます。
痛覚変調性疼痛
― なぜ評価が難しくなるのか ―
末梢性感作や中枢性感作の概念を踏まえて
近年整理されてきたのが、
痛覚変調性疼痛です。
これは、
侵害受容性疼痛や
神経障害性疼痛だけでは
十分に説明できない痛みを
まとめた概念です。
ここで重要なのは、
痛覚変調性疼痛が
「原因不明の痛み」ではない
という点です。
ただし、
痛みを生じさせている要因が
単一の構造や刺激に
回収できなくなっているため、
従来の評価方法では
再現性を捉えにくくなります。
再現性が失われたのではない
痛覚変調性疼痛において、
再現性が完全に失われているわけではありません。
- 時間帯
- 疲労
- 環境
- 文脈
といった条件によって、
痛みの現れ方が変化しているだけで、
再現性の軸が変わっている と捉えることができます。
構造や動作だけでなく、
神経系の感受性や処理の変化を含めて評価することで、
新たな仮説が立ち上がります。
評価不能ではなく、評価が更新された状態
痛覚変調性疼痛は、
評価不能な痛みではありません。
むしろ、
これまで用いてきた
評価モデルだけでは
十分に捉えきれなくなった状態
と考える方が適切です。
再現性が低いからといって、
思考を止めるのではなく、
評価の軸を広げ、
仮説を更新し続ける。
この姿勢こそが、
再現性が変化した痛みに
向き合うための前提になります。


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