痛みをどう考え、どう向き合ってきたか

― 第1〜6章のまとめとして ―

ここまで、
痛みについて
定義・分類・評価・神経・感作という視点から
整理してきました。

扱ってきた内容は、
どれも新しい概念そのものではありません。

しかし、
それらを
どのような順序で捉え、
どう臨床に結びつけるか

という点には、
一定の意図があります。

このまとめ記事では、
第1章から第6章までの流れを簡単に振り返りながら、
なぜこの構成を取ったのか、
そして私自身が
痛みとどう向き合ってきたのかを
少し個人的な視点も交えて述べたいと思います。


目次

第1章:痛みの定義と分類から始めた理由

最初に取り上げたのは、
「痛みとは何か」という定義と分類でした。

侵害受容性疼痛、
神経障害性疼痛、
そしてそれだけでは説明できない痛み。

これらは
臨床の現場では
当たり前のように使われています。

しかし、
分類がそのまま結論になってしまった瞬間、
思考が止まる危険性も孕んでいます。

だからこそ、
まずは
定義と分類は道具である
という前提を確認することから始めました。


第2章:分類に依存した臨床の構造

次に扱ったのは、
分類に依存せざるを得ない
臨床の現状です。

侵害受容性、神経障害性で
説明できなければ、
心理的要因として整理される。

この流れは、
個々の医療者の問題ではなく、
制度・時間・安全性といった
構造の中で生まれているものです。

ここでは
誰かを批判することよりも、
なぜそうならざるを得ないのか
を理解することを重視しました。


第3章:再現性を軸にした評価

第3章では、
痛みを評価するうえでの
中心的な考え方として
再現性を取り上げました。

痛みは主観的で、
数値化だけでは不十分です。

だからこそ、

  • いつ
  • 何をすると
  • どのように

痛みが再現されるのかを
可視化することが重要になります。

問診、構造評価、動作確認、
整形外科的テストを組み合わせ、
痛みを
「起きている現象」として捉える。

これは、
治すため以前に
理解するための作業 だと考えています。


第4章:再現性が低い痛みへの向き合い方

しかし、
すべての痛みが
明確な再現性を示すわけではありません。

第4章では、
再現性が低い痛みを
「評価不能」として扱うのではなく、
仮説を更新し続ける対象
として捉える視点を整理しました。

再現性は
ある・ないの二択ではなく、
程度の問題です。

小さな再現性を拾い上げ、
介入の反応を評価に組み込みながら、
思考を止めない。

この姿勢が、
臨床を科学として成立させる
前提だと考えています。


第5章:神経を力学的構造として捉える

第5章では、
神経を
情報の通り道ではなく、
動く構造物 として捉える視点を紹介しました。

SLR や ULNT が
陽性か陰性かだけで
評価が終わってしまうと、
多くの情報を見落とします。

軸索レベルの問題なのか。
神経鞘レベルの滑走不全なのか。

テストの結果だけでなく、
触診や反応の質を見ることで、
再現性が低く見えた痛みに
別の仮説が立つことがあります。


第6章:感作と痛覚変調性疼痛

第6章では、
末梢性感作・中枢性感作、
そして痛覚変調性疼痛について整理しました。

ここで強調したかったのは、
これらが
「説明できない痛み」ではなく、
評価の前提が変わった状態
だという点です。

構造や動作だけでは
再現性を捉えきれなくなったとき、
神経系の感受性や処理の変化を含めて
評価する必要があります。

再現性が崩れたのではなく、
再現性の軸が変わった。

この理解が、
思考停止を防ぎます。


個人的な感想として

私自身、
理学療法士として経験を重ねる中で、
「なぜこの痛みは説明できないのか」
「なぜ治療がうまくいかないのか」
と悩む場面に何度も出会ってきました。

そのたびに、
新しい理論や手技に答えを求めたこともあります。

しかし今は、
答えを急ぐことよりも、
問いを更新し続けること の方が
大切だと感じています。

学が足りないからと
意見を持たないのも、
得た知識に固執して
疑問を持たなくなるのも、
どちらも健全ではありません。

その時点での
知識と経験をもとに、
「今の最もベター」を選び続け、
なおベストを模索する。

それが、
医療者であり、
科学に関わる者の姿勢だと思っています。


これからについて

このまとめは、
一つの結論ではありません。

あくまで、
ここまで考えてきた
途中経過です。

今後は、

  • 評価仮説をどう臨床で更新するか
  • 経過や反応をどう解釈するか
  • 痛みと長く付き合う患者と
    どう向き合うか

といった点について、
さらに掘り下げていく予定です。

この文章が、
誰かの臨床で
立ち止まり、考え直す
きっかけになれば幸いです。

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