― 再現性が低い痛みへの一つの仮説 ―
再現性が低い痛みを評価する際、
神経系を
「情報伝達の経路」だけでなく、
力学的に動く構造物 として捉える視点は、
重要な意味を持ちます。
この考え方を臨床に持ち込んだ代表的な人物が、
David Butler や Michael Shacklock です。
彼らは、
神経を
伸張され、滑走し、周囲組織と相互作用する
動的な構造として捉え、
評価の枠組みを提示しました。
神経伸張テストの解釈
― 感受性と特異性をどう考えるか ―
SLR や ULNT は、
神経系の関与を評価するための
代表的なテストです。
しかし、これらのテストは
単純に
陽性か陰性か
で解釈できるものではありません。
重要なのは、
どのレベルの神経構造が
どのような状態にあるのか
という視点です。
軸索レベルの問題が示唆される場合
軸索レベルでの癒着や
神経全体に張力が伝わりやすい状態では、
- SLR や ULNT で症状が再現されやすい
- 神経走行に沿った放散痛が出現しやすい
- 再現性が比較的高い
といった特徴を示すことがあります。
この場合、
神経に加わる張力そのものが
症状を誘発している可能性が考えられます。
神経鞘レベルの問題が示唆される場合
一方で、
神経鞘レベルでの癒着や
滑走不全が主体の場合、
- SLR や ULNT が陰性
- 明確な放散痛を伴わない
- 症状の再現性が低く見える
といった特徴を示すことがあります。
ここで重要なのは、
テストが陰性であっても
神経の関与を否定できない
という点です。
神経鞘レベルの問題では、
神経全体に張力をかけるテストよりも、
神経に対する精密な触診 によって
再現痛が得られることがあります。
これは、
神経が
「伸ばされること」ではなく
「局所的に刺激されること」に
反応している状態とも考えられます。
陰性所見が示すもの
SLR や ULNT が陰性であることは、
必ずしも
神経が痛みの要因ではない
という意味ではありません。
むしろ、
- どのような刺激に反応しなかったのか
- なぜ再現されなかったのか
を考えることが、
次の評価につながります。
再現性が低い痛みの一部は、
評価方法が
神経の状態に適合していなかっただけ
という可能性もあります。
フロッシングと滑走性の位置づけ
神経の滑走性や
フロッシングは、
治療手技として語られることが多いですが、
本来は
評価を深めるための操作
としても有用です。
- 動かしたときに症状が変化するのか
- 反応が即時的か、遅れて出るのか
- 再現性が変わるのか
こうした反応は、
仮説を更新するための
重要な情報になります。
再現性が低い痛みへの新しい視点
再現性が低い痛みは、
評価不能な痛みではありません。
評価の軸を
構造・動作だけでなく、
神経の力学的特性 に広げることで、
新たな仮説が立つ可能性があります。
これは、
正解を示すための理論ではなく、
臨床家が
思考を止めないための視点です。


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